2023/10/06 13:31

▶ この記事では...

どちらも緑茶の仲間の煎茶と釜炒り茶。
それぞれ、製法と味わいの違いを紹介します。

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▶ 煎茶

不発酵茶として日本で最も多く生産されているのが煎茶。
基本的に露天で栽培された茶葉を蒸して加工したものです。

淹れる温度帯によって味にかなりの違いが生まれ、低めだととろりとした旨味ののったお茶に、高いと引き締まって香りのよく立つお茶になります。

何百年も昔からあるという訳ではなく、煎茶は江戸時代後期に製法が確立されたと言われています。
輸出品目の花形のひとつとして近代化にもうまく乗り、大量に生産する技術が整えられ現在に至ります。


煎茶は、蒸気を利用して生の茶葉を蒸すことで作られます。熱によって茶葉の酸化発酵を進める酵素のはたらきを止めてから、揉み込みと乾燥、選別や火入れといった数多くの工程を経て仕上がります。

各工程それぞれの工夫によって煎茶にもバリエーションがあり、たとえば蒸し時間の長短によって「浅蒸し煎茶」「普通蒸し」「深蒸し」のように分けられます。浅ければ茶葉の爽やかな香りが残った繊細な印象になり、深くなれば香りは弱まる一方でどっしりとしたコクを持つお茶になる傾向があります。浅いか深いかは品質を指すものではなく、あくまでも仕上がるお茶の特徴を表すものです。

蒸す前に生の葉をしばらく置いて萎れさせることで、香りの前駆体を増やし爽やかな香気をねらうものもあります。萎れさせる工程を「萎凋(いちょう)」と呼ぶので、こうしたお茶は「萎凋煎茶」などと呼ばれます。現代に比べて機械化のあまり進んでいない時分には摘むのに時間がかかり、また工場の処理量も多くなかったことから、摘んでから加工されるまでに長く時間がかかりました。自然と葉が萎れてしまうものが多かったと聞きますが、昨今では生産の効率化が進んでいることからこのタイプのお茶は非常に少なく、ごく一部の農家によって取り組まれてるのみです。もちろん萎凋煎茶がそうでないお茶より優れているという訳ではなく、これもまた飲む人の好み次第です。



釜炒り茶にはない煎茶の揉み込み工程として「精揉(せいじゅう)」があります。これは揉み込みの最終工程で、熱をかけながら茶葉を揉み、内側に水分を残さないようにして全体の含水率を低くし、また形は細長く整えられます。煎茶の特徴的な見た目はこの工程で作られます。

外観も内質も、同じ煎茶といっても原料の状態や製茶工程に如何によってずいぶんと多様な仕上がりがあります。それらひとつひとつについて触れるのは冗長になりますからここでは控えますが、ともかく煎茶は「露天栽培・蒸す」というキーワードとともに押さえておきましょう。

▶ 釜炒り茶

煎茶と同じ不発酵茶のひとつです。釜炒り茶はさらに古くから伝わっている茶種で、中世に大陸からもたらされました。国内では九州の生産量が多く、熊本・佐賀・長崎県などを中心に、そのほか各都道府県でも個人単位で生産している農家が点在しています。しかし全体のシェアは非常に少なく、数%に留まります。


釜炒り茶の製法上の大きな特徴は、蒸すのではなく名の通りに釜で炒ること、精揉がないこと、の2点です。

炒ることにより独特のすっきりとした香気が生まれます。また揉み込みの工程が少ないことから組織があまり壊れておらず、仕上がったお茶はよく引き締まっています。そのため成分が溶け出すのはややゆっくりで、煎がきくのも特徴といえます。

煎茶と同じく、製茶の各工程の工夫によって仕上がるお茶の風味は千差万別です。昔ながらの釜炒り茶は各工程の火加減が強く、香ばしさのしっかりとついたものがポピュラーでした。現在でも地域の方々のそうした好みに合わせて、オールドスタイルな釜炒り茶づくりに励む方も多々おられます。

一方で様々な工夫もみられ、萎凋と組み合わせて台湾の包種茶のように香り高いものや、施肥量を増やして旨味をしっかりとのせているもの、また火の入れ方を工夫して生々しさを残したり、原料そのもののキャラクターが香ばしさで邪魔されないよう調整するものなど、全体として生産量は多くないながらも、個人として楽しむ分には非常にバラエティ豊かなお茶でもあります。これは釜炒り茶の製造工場のほとんどが古い製茶機械を使い続けていることも一因とみられ、半人半機ともいえるほどにオートメーション化はあまり進んでいないのです。


精揉工程がないため、勾玉状に曲がったままの釜炒り茶。

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▶ 煎茶と釜炒り茶、どっちにしようか

中国・台湾・韓国では緑茶といえば釜炒り茶が今なお主流です。日本に暮らす人にとっては馴染み深い蒸し製煎茶も、世界的にみればかなり独特な製法であることがわかります。

煎茶と釜炒り茶のどちらにしようかと悩む方もたくさんいらっしゃいますが、一概にどちらがおすすめと言えるわけでもなく、お茶屋としては「好き好きですから」と言いそうになって押し止めるような状況です。

ただ、煎茶と釜炒り茶は明らかに香味が違います。
あえて端的に言うとすれば、煎茶はふくよかで、釜炒り茶はさっぱりしているものが多いように感じます。加熱方法と施肥量の違いが主にこうした違いを生んでいると思われます。

煎茶は生産者の分母が釜炒り茶とは比べ物にならないくらいに多いので、それだけ販売者も多く、様々な商品に用意にアクセスできるという特徴があります。淘汰もされやすく品質は釜炒り茶よりも安定的に流通しているといえるかもしれません。一方であまりにも商品数が多いので、迷ってしまうかもしれません。場数を踏みながら整理して、自分の好きを見つけること自体に楽しさを見出していただきたいなと思います。

釜炒り茶は反対に生産量がとても少ないので、どちらかというと様々な品質のものがそれぞれ食い合うことなく林立しているような印象を受けます。たしかに希少ではありますが、口にするものですから美味しくなければはじまらず、珍しいというだけで売るのは間違いです。それだけいいものに巡り合ったときには喜びもひとしお。分母が小さいため良質な釜炒り茶を見つけるのは意外とむずかしいと当店は考えています。

▶ 当店のお茶としては…

煎茶と釜炒り茶、それぞれの定番をここに挙げておきます。
いずれも市場的価値からは少し距離を置いたものですが、その品質については語りたいことがたくさん。続きはぜひお会いしたときに…

煎茶「日野荒茶」



釜炒り茶「芦北釜炒り茶」